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土井さんの「野山の花と蝶を訪ねて」

 私がこれまでに訪ねた野山で出会った花や蝶たちを、思いつくままに紹介していきます。 今回は「ゼンテイカ」(別名:ニッコウキズゲ)を紹介します。

【№9】ゼンテイカ(禅庭花)
       ユリ科ワスレグサ属(キズゲ属)
       学名 Hemerocallis dumortieri var. esculenta

  • ゼンテイカは本州中部以北、北海道、南千島、樺太に分布する多年草です。 ブナ帯上部から亜高山帯のやや湿った草原で群生して咲き、 別名の「ニッコウキスゲ」の名称の方が有名です。 加賀白山が分布の西限で関西人は 夏に中部地方の山に登って出会う花という印象をもっているのではないでしょうか。
  • 各地で別々に命名されたために、和名・学名ともに混乱が見られました。 現状では、種の統合・整理の結果、和名は「ゼンテイカ」が標準とされていますが、 一般的にはなじみがない名前です。 さらに最新のAPG分類では、ユリ科からワスレグサ属等の種がワスレグサ科として分離され、 さらにややこしくなっています。
  • 花は7月から8月にかけて咲き、1つの花は1~2日間開花してしぼんでしまいます。 属名のHemerocallisは、「1日の美しさ」という意味で英語でもDaylilyとよばれています。
  • ワスレグサ属の種には、 大阪の里山等で見られるノカンゾウ(H. fulva var. disticha)や 夕方から翌朝まで咲くレモンイエローのユウスゲ(H. citrina var. vespertina)があります。 一般にヘメロカリスと呼ばれる園芸品種は、 日本や中国原産のワスレグサ属の原種が、ヨーロッパなどに導入されて改良された品種で、 今では2万種以上の品種あるといわれています。
  • ワスレナグサ属の花は両性花で、真ん中の雌しべが外向きに一本長く伸び、 それを取り囲む6本の雄しべは、カーブして花の内側を向いています。 開花している時間が短いので、他の両性花で見られる、 自家受粉を防ぐための雌雄異熟(葯から花粉が出てくる雄性期と柱頭が花粉をつけられる状態になっている雌性期が時間的にずれる。)ができないために、 花にやってきた昆虫についた花粉が 同じ花の雌しべに着きにくいような形態になっているのだと考えられます。
  • 夏の高原を黄色に染めるゼンテイカ。夏山シーズンの到来を告げています。

(2012年7月)

写真1:ゼンテイカ(福島県雄国沼湿原)
ゼンテイカ1

写真2 ゼンテイカの群落(群馬県尾瀬ヶ原)
ゼンテイカ2

写真3 ノカンゾウ(堺市) 
コミスジ

写真4 ユウスゲ(鳥取県大山)
コミスジ

撮影と解説者紹介:

土井 雄一(どいゆういち) ・・ FIO会員

土井さんの写真 小学校時代から昆虫採集を始め、蝶を求めて各地の野山を訪ねる中で、 花の美しさにも魅せられて写真撮影に熱中。 森林インストラクター。